尊厳をもって最期まで自分らしくありたい。これは誰もが望むことですが、この願いをはばみ、深刻な問題になっているのが「認知症」です。いまや老後の最大の不安となり、超高齢化社会を迎えようとする日本にとって最重要課題の一つとなっています。
認知症は誰にも起こりうる脳の病気によるもので、85歳以上では4人に1人にその症状があるといわれています。現在は169万人ですが、今後20年で倍増することが予想されています。
認知症の人が記憶障害や認知障害から不安に陥り、その結果まわりの人との関係が損なわれることもしばしば見られ、家族が疲れ切って共倒れしてしまうことも少なくありません。しかし、周囲の理解と気遣いがあれば穏やかに暮らしていくことは可能です。
そのためには地域の支え合いが必要です。だれもが認知症についての正しい知識をもち、認知症の人や家族の支える手だてを知っていれば「尊厳ある暮らし」をみんなで守ることができます。
2004年12月、「痴呆」から「認知症」へと呼称が変更されましたが、この背景には「痴呆」は侮辱的で、高齢者の尊厳を欠く表現であること、その実態を正確に表していないこと、早期発見・早期診断等の支障となっていること、それらが認知症対策の取り組みへの障害ともなっているなどの現状があります。
この変更を契機として、みんなで認知症の人とその家族を支え、誰もが暮らしやすい地域をつくっていく運動「認知症を知り地域をつくる10か年」のキャンペーンが始まりました。
キャンペーンの一環である「認知症サポーター100万人キャラバン」では、認知症を理解し、認知症の人や家族を見守る、認知症サポーターを一人でも増やし、安心して暮らせる町づくりを市民の手で展開していきます。
認知症の人と対応する際には、認知症に伴う認知機能低下があることを正しく理解していることが必要です。そして、偏見をもたず、認知症は自分たちの問題であるという認識をもち、認知症の人やその家族が、認知症という困難を抱えて困っている人であるということに思いをはせること、認知症を抱える人が安心して生活ができるように支援するという姿勢が重要になります。
認知症の人も一般の人とのつきあいと、基本的には変わることはありません。そのうえで、認知症の人には、認知症への正しい理解に基づく対応が必要になるということです。
記憶力や判断力の衰えから、社会的ルールに反する行為などのトラブルが生じた場合には、家族と連絡をとり、相手の尊厳を守りながら事情を把握して冷静な対応策を探ります。
なお、ふだんから住民同士が挨拶や声かけにつとめることも大切です。日常的にさりげない言葉がけを心がけることは、いざというときの的確な対応に役立つでしょう。
1、驚かせない
2、急がせない
3、自尊心を傷つけない
●まずは見守る
認知症と思われる人に気づいたら、本人やほかの人に気づかれないように、一定の距離を保ち、さりげなく様子を見守ります。近づきすぎたり、ジロジロ見たりするのは禁物です。
●余裕をもって対応する
こちらが困惑や焦りを感じていると、相手にも伝わって動揺させてしまいます。自然な笑顔で応じましょう。
●声をかけるときは1人で
複数で取り囲むと恐怖心をあおりやすいので、できるだけ1人で声をかけます。
●後ろから声をかけない
一定の距離で相手の視野に入ったところで声をかけます。唐突な声がけは禁物。「何かお困りですか」「お手伝いしましょうか」「どうなさいました?」「こちらでゆっくりどうぞ」など。
●相手に目線を合わせてやさしい口調で
小柄な方の場合は、体を低くして目線を同じ高さにして対応します。
●おだやかに、はっきりした滑舌で
高齢者は耳が聞こえにくい人が多いので、ゆっくりとはっきりした滑舌を心がけます。早口、大声、甲高い声でまくしたてないこと。その土地の方言でコミュニケーションをとることも大切です。
●相手の言葉に耳を傾けてゆっくり対応する
認知症の人は急がされるのが苦手です。同時に複数の問いに答えることも苦手です。相手の反応を伺いながら会話をしましょう。たどたどしい言葉でも、相手の言葉をゆっくり聴き、何をしたいのかを相手の言葉を使って推測・確認していきます。
※全国キャラバン・メイト連絡協議会「認知症サポーター養成講座標準教材」より抜粋